罠に掛かるネズミ

ソロリソロリと餌に前足を伸ばすと、 ネズミの前足が粘着シートに絡まった

ネズミは慌てて粘着シートから前足を外そうと、 懸命にシートの外に向けて体重をかけた

けれど、それが良くなかった

少しずつ、ゆっくりと慎重に体重をかければ、きっと外すことが出来たのだけれど、

慌てて体重をかけたものだから、足が滑って体全体がシートにベタンと倒れてしまった

こうなってしまうと、もう、どうにもならない

無機質な紙製の板が床に叩きつけられて 「パタンッ」と静かに音が鳴った瞬間、

ネズミの命がこの場所で途絶えることが決定した

振り返ってみれば、彼は父親と母親の交尾によってこの世に産まれ落ちた

そこから様々な土地を渡り歩き、様々な苦難を乗り越えて今日まで生き延びてきたのだけれど、

つい先程、たった1秒間の中で起きた些細な判断ミスによって、そのストーリーは終幕を迎える

家族や、友人や、花も、線香も無い、薄暗い屋根裏の中で、

その命は静かに消えようとしていた

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